vol.14 トオイ→しょ
極端な人たち、極端なおんがく



<トオイの選曲>
1. Song For Sally / Chick Corea 『Piano Improvisations vol.1』(1971)
2. Allegro, ma non troppo / Glenn Gould 『Beethoven: Bagatelles, Opp. 33 & 126』(?)
3. All The Rest Is The Same / Steve Kuhn  『Remembering Tomorrow』(1995)
4. Tenderly / The Three Sounds  『The Three Sounds』(1958)
5. Snowfall / The Montgomery Brothers 『The Montgomery Brothers In Canada』(1962)
6. Reincarnation of a Lovebird / Gil Evans and Steve Lacy  『Pink Moon』(1972)
7. Alfie / Brad Mehldau  『Live in Tokyo』(2004)
8. Bohemia After Dark / Oscar Pettiford 『Oscar Pettiford』(1955)
9. SAN-SAN-SHICHI / 菊地雅章 THE SLASH TRIO 『SLASH 4° 』(2003)
10. Here's That Rainy Day / Bill Evans 『Alone』(1968)

軽い註釈
1. … Chick CoreaはどうしようもなくChick Coreaのにおいがする。
2. … ピアノのタッチにフェティシズムを感じる境地
3. … 美意識の極端さ。自分が影響を受けているというか、近いものを感じる。でもこの人のスタンダードの演奏とかは、えぐくて微妙なところもある。
4. … ジャズの洗練化の一つの極端な例。細野晴臣は"ランチタイム・ミュージック"とよんでいた気がする。甘すぎるお菓子みたい。
5. … 極端というよりは"不穏"だけど…。でも改めて聴くととてもよい。
6. … 最強の組み合わせ。Steve Lacyのソロ作品もよい。
7. … このなかではいちばん甘口に聞こえるけど。名前を見て買いたくなるくらいの極端さはある。
8. … Oscar Pettifordはあまりにもベーシストで、あまりにもかっこいい。
9. … この人の異様な激しさや時間感覚のゆっくりさは突き抜けている。
10. … JazzというよりBill Evansという世界。極端さとポップさは相容れにくいと思ったけど、この人は両立している、かな?

2008.3.
トオイダイスケ


<しょの感想>

トオイ様、ならびに読者の皆様 (←うざい)、ごめんなさい。大変遅くなりました。
極端について考えを巡らせていたわけではなくて、残念ながら、聞いたり返事書いたりする暇が皆無でした。

今回、(CDもらった時には見ちゃったけれども、それ以降) 知識によるバイアスがかからないように、曲名・演奏者を見ないで聞いたのね。
それでも明らかに、チックはチックだし、エヴァンスはエヴァンスだし、プーさんはプーさんだった。
ただ、「その人でしかあり得ないなぁ」という事と、「極端」というニュアンスとは、またちょっと違う気がするのです。

アホみたいな話になりますが、グールドは確かに極端であるけれど、極端である前にクラシックである、と感じてしまったし、プーさんに至っては、極端どころか、エモーションや重みを受け取るより先にただただ「かっちょいい!」と思ってしまった。
これらを「極端」と受け取るまでには、まず「クラシック」とか「ジャズ」とか「クール」とか「タマシイバクハツ」とかの前提・枠組み・文脈があって、それをふまえて、その枠組みの中での異質さ、究極さが見えてくる、という、ステップが必要なような気がする。メインストリームあってのアウトローというか(?)、判断基準の軸がいるというか。
って、これは、もしかすると、僕が、モンゴメリブラザースを聞いてもメルドーを聞いてもまず「ああ、ジャズだね」としか思えないような(というと極端だけど)、残念な耳に、一歩成り下がってしまった、という事なのかもしれないけれど。
ともあれ、なんというか、「ぱっと聞いてまず『ああ、極端だなあ』と真っ先に感じる」ものではなかった、んですね。
スッと素直に「あー、極端だなー」と思ったのは、M-4のテーマとM-8くらい。
僕の耳というか感覚というかが極端ですね。

しかしオスカー・ペティフォード、たまらないですね。なんでしょうねこれは。
極端とは何ぞやを置いておいて、今回の10トラック、全部、好きです。


追伸:
聞いたり考えたりしているうちに、なよなよの回 (vol.11参照)と似た話ですが、「芸術つーものは、だいたいが極端なんじゃなかろうか」という考えに至ってしまいました。ああ、なんて頭悪いんだ俺。


2008.4.19.
酒井匠


<トオイのリターン>

こんにちは。このコーナー的にはおひさしぶりですね。桜も咲き葉桜が目にやさしい季節になってきた。

しょくんの感想にお応えすると、

確かに言うとおりで、確かに"その人でしかありえない"性が強いミュージシャンたちをピックアップした、という趣が出ていますね。
改めて考えると、例えば各ジャンルまたはスタイルにおいて際立った特徴を持った、もしくは際立ったサウンドを追求しようとした人を挙げてみればテーマにより近かったのかもしれません。だとしたら、例えばフィラメント(大友良英+Sachiko M)とか、ジョン・ケージとか、なのかな。ジョン・ケージ持ってたかどうかはっきり思い出せないのですが……。
あ、でもそれだと、「枠組みの中での異質さ、究極さ」ということと同じだね。たぶん。

でも、正直なところ、極端って何だろう、とも思ったりします。その人にとって必然な表現やあり方だったら、それは極端、と言えない気もするし。これは演奏したりつくったりする側の考え方かな。

余談だけど、例えば野球だったら、ぼくはやる側ではなく観て楽しむ側だから、少し古い例だけど、種田のバッティングフォームは極端だとか、山内(投手、広島)のピッチングフォームは極端だとか、大道のバットの持ち方は極端に短く感じる、というように極端さを感じるけど、でもこれは全部とりあえず見た目の話だな。

話を戻して、極端だなあ、という形容は、ぼくにとっても難しいというか、よく分からない。ある音楽が出てきた時点で、どこにもカテゴライズできなかったり、形容が極めて難しかったりするものは、ある種の極端なものかもしれない。そういったものでも数十年経てば歴史上の一連の流れに位置づけられてしまったりするけど。

ぼくが今回選んだものは、あくまでぼくのなかで、存在のしかたが一定の濃さを超えているもの、という感じだったのかもしれません。でも少し言い訳すると、それは単に"濃い"ということではなくて、何と言うか、"居てしまう"、"刻み付けられてしまう"、みたいな感じです。

うーん。だめだ。テーマの誤解に近いといわれても仕方ない。ごめんね。

ちなみに今ここで、極端に向かったとぼくが感じる、ミュージシャンの名前だけ挙げてみると、

・阿部薫(as)
・デレク・ベイリー(g)
・杉本拓(g)

……あまり浮かばない。ごめんなさい。今回はちょっと罰ゲームだな。。


*次回テーマは、
「自分がもし、仲間が集まれるお店をつくるとして、そこでかけるBGMとしての一枚」
にします。


2008.4.20.
トオイダイスケ


<しょのリターン>

どうも。

そうでした、自分で出したお題でしたね...。
「こういうのが来そう」と想定していたわけでも、自分の中での「極端とは」の明確な答えがあったわけでもないのですが、それで「主旨とズレた」的な(ズレたとまでは思ってないですが) 返事をしたのは、良くなかったです。失礼。

でも、

> ぼくが今回選んだものは、あくまでぼくのなかで、存在のしかたが一定の濃さを超えているもの、という感じだったのかもしれません。でも少し言い訳すると、それは単に"濃い"ということではなくて、何と言うか、"居てしまう"、"刻み付けられてしまう"、みたいな感じです。

これは、すごく妥当な「極端」の解釈ではないでしょうか。納得しました。


> ある音楽が出てきた時点で、どこにもカテゴライズできなかったり、形容が極めて難しかったりするものは、ある種の極端なものかもしれない。そういったものでも数十年経てば歴史上の一連の流れに位置づけられてしまったりするけど。

お詫びに(?)僕が同テーマで選ぶとしたら...と考えてみたところ、実はまさに、歴史に名を刻むというか、ジャンル自体を開拓したような人ばかりが浮かんでしまった。(20年代のブルースメン、コルトレーン、ジミヘン、などなど。)

それ以外のところで、思いつくままに書いておくと、
・Meredith Monk
・安東ウメ子さん (これはちょっと違うかも)
・Milky Way / Weather Report
・Leon Thomasの何か (Song For My Fatherとか?)
・西部劇的なもののサントラか、ジョン・ウィリアムス (=ルーカス映画の音楽監督)
・BORDOMSの何か (最も狭義の意味で「音楽的でない」やつ)
・橋本信二さん
みたいな事でしょうか。だめだな、これも。


> *次回テーマは、
> 「自分がもし、仲間が集まれるお店をつくるとして、そこでかけるBGMとしての一枚」


ひゃーすげー悩む。


2008.4.20.
酒井匠



次回 しょ→トオイのお題:「自分がもし、仲間が集まれるお店をつくるとして、そこでかけるBGMとしての一枚」