vol.13 しょ→トオイ
酒井匠的ベスト スピッツ編



<しょの選曲>
1. グラスホッパー / スピッツ 『ハチミツ』(1995)
2. バニーガール / スピッツ 『インディゴ地平線』(1996)
3. 日なたの窓に憧れて / スピッツ 『惑星のかけら』(1992)
4. 田舎の生活 / スピッツ  『オーロラになれなかった人のために』(1992)
5. さらばユニヴァース / スピッツ 『ハヤブサ』(2000)
6. 夢追い虫 / スピッツ 『夢追い虫 (single)』(2001)
7. フェイクファー / スピッツ  『フェイクファー』(1998)
8. ローテク・ロマンティカ / スピッツ  『三日月ロック』(2002)
9. 名前をつけてやる / スピッツ  『名前をつけてやる』(1991)
10. スパイダー / スピッツ 『空の飛び方』(1994)
11. 旅人 / スピッツ 『渚 (single)』(1996)
12. トンビ飛べなかった / スピッツ  『スピッツ』(1991)
13. 鳥になって / スピッツ 『魔女旅に出る (single)』(2000)
14. 8823 / スピッツ  『ハヤブサ』(2000)
15. 愛のことば / スピッツ  『ハチミツ』(1995)

しばらく悶々としましたが、完璧なセレクトなんて到底無理なんだ!と開き直ることにし (最も選び甲斐のあるテーマのひとつなだけに、やや試合放棄するような後ろめたさ・心残りはありますが)、深く考えずにサクサクと選びました。

というのも、どの曲も好きで、思い入れがあり、まず普通に絞ったところ3時間くらいになってしまったわけですね。
そこからどんどん削っていくと、どう選んでも、「これが入ってて、何でこれが入ってないの?」と自分でつっこまざるを得ないセレクトになってしまうわけです。
この企画を考えると、「トオイの知らなそうな曲」という点に力点を置く考え方もあるのですが、それでは「酒井匠的ベスト」にはならないという問題があります。
世の中にあるベスト盤と同じになってしまっても面白くないし (そうなったらそうなったでひとつの明確な答えが出るけれど、やっぱりなかなかそうもいかない)、かといって、シングルをまず外して考えるというのも、意味が反転してしまっている。
アルバム・時代に偏りがあってもよくないし、バラード荷重・アッパー荷重もよくない。
これは、困りました。

もう少し言い訳を続けると、60分ぶんを選ぼうとしてみて、いかにスピッツに「名曲」が多いかが良くわかったわけです。
その上で、スピッツの本意 (トオイ的な言葉で言うところの "スピッツのスピッツ性") とは何かを考えてゆくと、いわゆる「名曲」ではない曲にも、実に「スピッツらしい」素晴らしい曲が多い、という。嗚呼。
「スピッツのアルバムに捨て曲なし」とよく言いますが、本当にその通りです。

結果、一枚通して聞いた時にすっと流れて、その上でなんとなく「スピッツってこういうバンドかー」とわかった気になるような並びには、なったんじゃないかと思います。
(意図せずして、結果四人だけでやっている曲が多くなったのは、我ながら興味深い!)

また、結果的にシングルがほとんど入らなかったのは、聞きすぎてて普段あまり聞かないからだと思います。
これが「酒井匠的ベスト」かと言われると、あまり自信はありませんが、収められている全てが「酒井匠の好きな、スピッツらしい曲たち」であることは、間違いありません。
この企画は、聞く方だけでなく選ぶ方もとても勉強になりますね。

なお、「月に帰る」と「ウサギのバイク」はvol.5で既に使っているために収録していません。

2009.1.05.
酒井匠


<トオイの感想>

曽我部さんの回と対をなすようなつもりで提示したテーマでしたが、やっぱりしょくんがスピッツをとてもよく聴いていることと、自分と好みのポイントがところどころ異なることが分かるセレクトっで、とても楽しかったです。

自分のスピッツを聴いてきた経験を振り返ると、"ロビンソン"で入って、『Crispy!』『空の飛び方』『ハチミツ』をたくさん聴いた、という程度だったので、ほとんど何も知らないに等しいです。

でも、このセレクトを聴いて、あったあった、と思い出したものもあるし、またそれがいい音(演奏、声、詞、メロディー、その他)だな、と感じるものも多く、スピッツっていいな、と思う。。

しょくんは結構初期(『スピッツ』『名前をつけてやる』『オーロラになれなかった人のために』『惑星のかけら』)に言及することが多かった気がする。ぼくは、『空の飛び方』以降の質感のほうがやっぱり親しみやすいとは思った。曲は初期も好きだと思うものはあるけど。でも今回出てきてないけど、「夏の魔物」とかだし、やっぱりぼくはスピッツの"ふんわりした部分"みたいなものを聴いている気がする。90年代前半的な音への興味が薄い、ということかな。。いや、毒のあるものやいびつなものを本心ではあまり好きではないということかもしれない。。でもいろいろな曲を聴いたりするたびにはっとさせられることは数々あるけど。
いびつが好きではない、というのは、書いてみてそうかもしれないと思ってきた。いびつなものに憧れたりかっこいいなと思うときはあるけど、いびつだから、という前提をつけて感じる節がある。これはある意味差別的な視点なのかもしれない。
でも、このあいだ読んだスピッツのインタビュー集のなかでは、これもやっぱり、『空の飛び方』あたりからの話のほうがおもしろかったというか、響いたというか……今の自分には、というのも多分にあるけど。ごめん。
この本でつくり方としては曲先ということを知って、ああ、曲先で自分のことばを紡ぐことができる人が詞を書ける人なんだな、ということも思ってしまったりした。あと、マサムネさんの詞の一人称に、「俺」が多いこと。「俺」をああいうふうに響かせることができるのはとてもいいなと思う。

あと、轟音のギターと、アルペジオ、ベースのうねり方、ドラムの音色、みんな好きです。

自分の話みたいになってしまうけど、自分の好みに偏りがあることは別に当たり前のことだからよいとして、その偏りが実は単なる保守的な選別作業であったら全くつまらないというか、豊かさをも刈り込んでしまっていることになる。自分のいままでの、物事の"セレクト"の仕方には、そういう狭めていく、大きいものを見ているつもりで小さく小さくしていく傾向があったな、と最近考えさせられている。

ぼくが今までの感覚のままですんなり好きだと思う曲は、このセレクトの中では、2、5、6、8、10、14、15。これ以外の曲を、もっとじっくりと楽しんでいきたいなと思います。
CD交換という場で、自分が持たない感覚を開けていけたら、より楽しいし、それで自分の今後のセレクトややる音楽に違う色や手触りや匂いが混ざっていったら、おもしろいことだと思う。と、これはまるで新年の抱負みたいですね。

ついでに、曽我部さんの回の後日談みたいになるけど、あのセレクトはぼくはしょくんの好みを想定してみたというか、今思えば自分が自分用につくるベストみたいな意味では選曲しなかったんだけど、あの中でぼくが今までの感覚のままですんなり好きだと思っていた曲をここで考えてみたら、2、3、4、9、14でした。この、視野が90度くらい重なる感じは、何においても共通しているかもしれません。おもしろい。ぼくはもともとの視野がたぶん90度くらいしかないのだが。。

と書いていたら、次回のテーマが「極端」。これはすごいタイミングだな。うーん。がんばる。


2009.1.31.
トオイダイスケ


<しょのリターン>

ほんとは犬なのに、侍のつもり。

> その偏りが実は単なる保守的な選別作業であったら全くつまらないというか、豊かさをも刈り込んでしまっていることになる。
> CD交換という場で、自分が持たない感覚を開けていけたら、より楽しいし、それで自分の今後のセレクトややる音楽に違う色や手触りや匂いが混ざっていったら、おもしろいことだと思う。


大きな話になりましたね!
でも、ほんとにそうだ。俺も気をつけなきゃ。


> ぼくは、『空の飛び方』以降の質感のほうがやっぱり親しみやすいとは思った。

売れただけのことはある、というか、『空の飛び方』と『ハチミツ』はやっぱりすごく完成度が高いよね。
これは笹路氏に依るところも大きいわけだけど、プロデューサーとプロデュースされるバンドのモチベーション、考え、モードが一致して良い共同作業になっていたとも言えるんじゃないでしょうか。
僕が初期ショキ言うのは、たぶんココは聞きすぎていて、最近のはまだ聞き込めていないから、なんだろうなあ。
この二作より他が好き(でもいいんだけど)と声高に主張するのは、どうも「アンチメジャー志向」みたいな側面があるように思えます。


> この本でつくり方としては曲先ということを知って、ああ、曲先で自分のことばを紡ぐことができる人が詞を書ける人なんだな、ということも思ってしまったりした。

えーふつうに曲先っぽいじゃん。まずメロディでしょう。
ちなみに僕は、草野正宗の詞は、半分以上は言葉遊びだと思ってます。深読みしすぎるのも誤り。


意図したわけではないけれど、12〜14は「鳥」ラインになってましたね。
偶然こういうことが起こるのも、スピッツっぽい。

あ、スピッツっぽいと言えば、
http://mixi.jp/view_community.pl?id=955435

が、トオイはmixi見れないのか。残念。
「スピッツっぽい単語」というコミュニティ。なかなか秀逸です。


> この、視野が90度くらい重なる感じは、何においても共通しているかもしれません。おもしろい。

そうだね!
では、次回楽しみにしております。


2009.2.09.
酒井匠


次回 トオイ→しょのお題:「極端な人たち、極端なおんがく」